令和四年 新年のご挨拶

福岡商工会議所 会頭 谷川浩道
令和四年 新年のご挨拶
(新年祝賀会主催者あいさつより)

福岡商工会議所 
  会頭 谷川 浩道

 新年、あけましておめでとうございます。
 皆様におかれましては、健やかな新年をお迎えのことと、お慶び申し上げます。
 まず、日頃から、私ども商工会議所の活動にご理解とご協力を賜っておりますことに対し、改めて御礼を申し上げます。
 本日は、後藤九州経済産業局長、服部福岡県知事をはじめ御来賓の皆様及び多くの会員の皆様にご来場を賜り、誠に有難うございます。また、オンラインでご参加の皆様にも、心より感謝をいたします。
  本日は新型コロナ感染防止のため、残念ながら、当ホテル(ホテルニューオータニ博多)のおいしいお食事をお出しできませんが、2年ぶりに顔を合わせて皆様と新年祝賀会を開催できますことを、大変嬉しく存じます。

 さて、昨年も、新型コロナに翻弄され続けた1年でした。
  感染拡大の波が幾度も押し寄せ、特に8月からの「第5波」では、感染者数が過去最多を更新しました。首都圏や関西圏では、医療が極度に逼迫し、入院できず自宅療養中に亡くなるというケースも出て、世の中全体に不安感と閉塞感が広がりました。東京都では、ピーク時に重症病床の使用率が実に97%に達しました。
  しかし、同じ頃、福岡県ではこの比率が20%を超えることはありませんでした。東京・大阪と比べてベッド数にはゆとりがありました。これは、服部知事・髙島市長のリーダーシップのもと、自治体と医師会がしっかりと連携したことによるものです。

 また、コロナ禍でおびただしい数の中小・零細事業者が苦境に陥りました。そうした事業者の救済策について、商工会議所から国・県・市に対し、数次にわたり要望を行いましたところ、真摯にご対応いただき、きめの細かい支援策を講じていただきました。この場をお借りして、改めて御礼を申し上げます。

 コロナ禍は、オミクロン株の登場により新たな局面に入りました。今朝までの報道を見ておりますと、もしかすれば、「第6波」の入り口に来ているのかもしれません。ただ、ワクチンの効果と医療体制の整備により、これまでのところ、重症化リスクは低く抑えられています。
  2年間の経験とデータで、コロナはもはや未知の病気ではなくなり、「ウィズ・コロナ」の局面に入ったと見ることもできます。これからは、大リーグの大谷選手にならって、「活発な社会経済活動」と「感染症対策」という「二刀流」で、世の中を明るいものにしていきたいものです。

 ここで、2022年の経済成長見通しについて、若干考えてみたいと存じます。世界銀行やIMFによりますと、実質GDPの伸びは、アメリカが5~6%、EUが4~5%という見通しなのに対して、日本については、2~3%と、かなり低めの数字です。
  では何故、世界と日本とで成長率の見通しにこんなにも差が出るのでしょうか?
  この点については、様々な見解がありますが、そのうち、以下の二つの原因を取り上げてみたいと思います。

 一つは、日本国民共通のいわゆる「リスク過敏症」です。これが、特にバブル経済崩壊後の企業経営において、顕著に見られるようになりました。
  例えば、12年前のリーマンショックへの反応です。当時、欧米の金融機関がサブプライムローンで大きく傷ついたのに対し、日本の金融機関はほとんど無傷でした。それにも拘らず、世界から波及してくるリスクを過度に恐れて、日本の金融機関と企業の活動に急激にブレーキがかかりました。
 その結果、2009年のGDPの伸び率は▲5.4%と、世界で最も著しく景気が落ち込む結果となりました。
  今回のコロナ禍においても、マスコミ報道を観察していればわかりますように、日本は国民全体が極度にリスクに敏感になり、そのために諸外国に比べて経済活動がより大きく制約されてしまっているように見受けられます。

 成長率の内外格差のもう一つの原因と考えられるのは、「わが国の潜在成長率が低い」という中長期的な要因です。潜在成長率といいますと、何やら難しく聞こえますが、これは、その時点その時点における経済の実力、自然体での経済の実力を示すもので、わが国の場合、1990年代後半以降、概ね1%前後で推移してきました。最近では、これがさらに0%の近傍まで低下しています。

 では何故、わが国は潜在成長率が低いのでしょうか?その要因を三つほど挙げてみます。
  一つ目の要因は、少子高齢化で労働人口が減少傾向に入ったうえに、労働力が生産性の高い部門に円滑に流れていないという、労働力に係る制約要因です。多くの職場では依然、人材の不足やミスマッチに悩まされています。また、大企業・中堅企業等では、岩盤のような終身雇用制度の下で、人件費に見合った生産性の向上が実現できておらず、さらには、生産性の高い産業や企業に労働力が円滑に移動できていません。つまり、折角の人材が生かされていません。
  二つ目の要因は、バブル崩壊後、多くの企業が借金の返済に努め、設備投資を抑制したことです。
  欧米諸国等はこれまで、ソフトウェアや機械などへの設備投資を大規模かつ活発に行ってきました。それに比べ、日本企業の国内への投資はわずかしか伸びていません。日本企業が海外で積極的に投資したという点を考慮したとしても、あまりにも小さい伸びです。
  三つ目の要因は、IT化・デジタル化の遅れにより、長期にわたり競争力と生産性が低下してしまったことです。それが図らずも、今回のコロナ禍で浮き彫りになりました。
  ここでスイスのIMD「世界競争力年鑑」を見てみますと、日本の競争力総合順位は64か国中31位です。ちなみに、30年前の日本の総合順位は1位でした。
  競争力の内訳を項目別に見てみますと、日本は、デジタルトゥールと技術の活用において57位、企業のDXにおいて60位、デジタル人材の利用可能性においては62位。ほとんどビリに近いところに位置しています。
  このように見てまいりますと、日本の潜在成長率の長期低迷は、①労働の移動が円滑でないなど人材が十分に活用されていないこと、②企業による国内設備投資が長期にわたり低調であったこと、③IT化・デジタル化が大幅に遅れてしまったことなどによるものと考えられます。

 さて、日本の国際競争力低下とは裏腹の話ですが、今、日本はOECDに加盟している38か国の中で、時間当たり労働生産性では23位に甘んじています。そして、それが賃金水準にも影響しています。過去30年の間にアメリカの賃金は48%増え、OECD加盟国の平均賃金も33%増えました。これに対し、日本の賃金は4%しか増えていません。この30年間、ほぼ横ばいのままです。
  そういうこともあって、岸田内閣は、重要政策として「成長と分配の好循環」を掲げ、企業には賃上げを要請しています。しかし、分配のためには、その前提として、つい今し方申し上げたように、成長のための投資が不可欠です。それによって初めて、企業は利益を上げ、それを労働者に賃金として分配することが可能となるわけです。分配より成長が先であり、この順番を間違えてはなりません。

 現在、国民生活は、原油価格の高騰、需要の急拡大、国際物流網の混乱、円安などを背景として、石油製品・原材料・食料品の価格高騰に見舞われています。加えて、米中摩擦などの政治的・経済的不安要因に取り囲まれています。さらには、地球規模の環境破壊や連年の大規模自然災害の発生を受けて、世界各国の企業がSDGsやカーボンニュートラルを旗印に、経営の舵を大きく切り替えていることを、私たちは承知しておかなければなりません。
  日本には政治的にも経済的にも課題が山積みです。

 福岡商工会議所におきましても、コロナ禍で打撃を受けた事業者への支援を引き続き行うことは勿論ですが、これらSDGsやカーボンニュートラルを念頭に置きながら、ポストコロナを見据え、事業者の経営力・競争力強化に向けた各種事業を精力的に行ってまいります。なお、特に中小企業のデジタル化とDXは重要課題の一つであり、企業経営者がその意義をきちんと理解し、経営の変革に繋げていけるよう、私どもは強力に後押しをしてまいります。

 さて、福岡商工会議所の新年祝賀会では、「今年の言葉」を披露するのが恒例となっています。 コロナ禍に一度はやられたものの、これからは攻勢に転じ、経済と社会の再起を図りたい。そうした思いから、今年の言葉として「捲土重来」を選びました。
  これは、「一度敗れた者が、再び勢いを盛り返して巻き返す」という意味であり、紀元前3世紀の中国の武将、項羽にちなんだ言葉です。項羽については、司馬遼太郎の小説「項羽と劉邦」でおなじみの方もいらっしゃるかと存じます。
  項羽は勇猛果敢な将軍でありながら、最後は老獪極まる劉邦に敗れてしまいます。その死を惜しんで、後の世の有名な詩人・杜牧が、「土煙を巻き上げるような勢いで再起していれば、歴史はどうなったか分からない」と詠んだのがこの言葉の由来だそうです。
  私たち日本人に必要なのは、項羽のように、たとえ危険があろうとも、あえて難題に挑戦する「アニマル・スピリッツ」なのではないでしょうか。私たちは、「捲土重来」を期して、勇ましく勇猛果敢に突き進んでいこうではありませんか。

 今、福岡市は「天神ビッグバン」等の大規模な都市再開発によって、街が大きく生まれ変わりつつあります。今年は、世界水泳選手権の開催、地下鉄七隈線の延伸開業も予定されており、明るい話題に事欠きません。
  この元気な福岡を支えるのは、福岡市の事業所数の98.8%を占める中小企業の力です。このコロナ禍をむしろチャンスと捉え、商工会議所は事業者の皆様と共に、福岡の活力創出に向け、頑張ってまいります。

 最後になりますが、福岡商工会議所への皆様の益々のご支援とご協力を心からお願い申し上げますとともに、令和4年が、皆様にとりまして、明るい未来を展望できる良き年になるようお祈りし、年頭の挨拶といたします。
  本年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。

以上

▽YouTubeで谷川会頭の挨拶の様子を公開しています

YouTube https://www.youtube.com/watch?v=jFwLLspqNSI