かくれ脳こうそく

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~働き盛りの健康管理~

かくれ脳こうそく 2005年12月号より

緒方 利安

国立病院機構 九州医療センター 脳血管内科 医師

日本内科学会認定医、老年病専門医。1972年生まれ。
研究テーマ:脳卒中急性期の病態、超音波検査。
健康Q&A
「かくれ脳こうそく」とはどのようなものでしょうか?
健康Q&A

 脳の健康診断として脳ドックを受けたり、たまたま頭痛の検査を受けたりした時に、自分では心当たりがないのに「脳こうそくがありますね」と言われた方はいませんか?脳ドック学会の調べでは、健康な方(平均年齢60歳)でも磁気共鳴画像(MRI)で脳の精密な画像検査を行うと、実に15.4%もの方に小さな脳こうそくが見つかるそうです。

 脳こうそくといえば、これまでの連載でもくり返し述べてきたように、手足の麻痺などの症状が出るのが普通ですが、症状が全くないのに見つかることもあり、これを「かくれ脳こうそく」と呼んでいます。無症状であることから「無症候性脳こうそく」とも呼ばれます。その病巣の大きさは径5mm~1cm以下と小さいものがほとんどですが、頭の中にいくつか見つかることも稀ではありません。ただしMRIで見えるものの中には、わずかな動脈硬化で生じる「脳のシミ」のような深部白質病変や小さな血管と脳の隙間のスペースを捉えていることもあり、無症候性脳こうそくと見分けがつかない場合もあります。一方、ある程度の大きさの脳こうそくでも、症状の出にくい場所に生じたためにこれまで気づかれずに過ごしたという場合もあり、別の大事な場所に再発すると大変なことになるものもあります。もしもこれらが見つかってしまい、十分な説明が受けられず不安な場合には、脳卒中の専門医に相談すべきでしょう。

 脳こうそく発作を起こした患者さんはすでにかくれ脳こうそくを持っていることも多く、かくれ脳こうそくはそれ自体が脳卒中を引き起こしやすい危険な因子とも考えられています。またかくれ脳こうそくが多数出現してくると、次第に認知症(ボケ)になってしまうこともあり得ます。かくれ脳こうそくを喩えると、「たまたま歯医者を受診したら、痛んだことのない歯の一部(エナメル質)に小さな虫歯ができていると指摘された」ようなものです。虫歯の場合も放置して毎日の歯磨きを怠け続けると、いつか大きな虫歯となり、痛みがでます。かくれ脳こうそくもそれ自体は無症状ですが、高血圧、糖尿病の管理不足や喫煙を続けていることなどが原因となっています。

 先日もタバコを一日40本も吸う会社員の方が、高血圧まで放置していたら、わずか52歳で脳こうそくを引き起こして入院してきましたが、発作を引き起こしたものとは別にいくつもの「かくれ脳こうそく」をすでに生じていました。恐ろしいことです。生活習慣が悪いというだけで脳ドック検査を進んで受ける必要はありませんが、まず高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、肥満、喫煙といった危険な生活習慣病を改め、ストレスの多い生活を見直し、日頃から脳を守ることが大事です。

 脳こうそく患者さんの再発予防には抗血小板薬という血液をサラサラにする薬が用いられていますが、この薬にかくれ脳こうそくの予防や増加を抑える効果があるのかは、まだはっきりしていません。糖尿病もあるとか、頸の血管が細くなるほど動脈硬化が進んでいる場合にはこの薬を使います。また、原因が不整脈の場合には抗凝固薬で積極的に治療します。いずれにしても「かくれ脳こうそく」は脳卒中発作の予兆である場合もあるので、指摘されたときは、しっかりした健康管理を始めることが大事です。