~働き盛りの健康管理~
糖尿病があると、そうでない人に比べて脳の血管がつまってしまう脳こうそくを2~5倍も発症しやすいことが明らかにされています。福岡県の久山町の住民を対象とした「久山町研究」によれば、40歳以上の約2割近い方にすでに耐糖能異常(血糖の調節が病的に悪化し、糖尿病の一歩手前の状態)がみられるようになってきており、それがあると男性では脳の細い動脈が詰まるラクナこうそく、女性ではより太い動脈が詰まるアテローム血栓性脳こうそくが起こりやすいといわれています。一般に糖尿病で血糖値が高い状態を放置すると、「血液は水飴状態でドロドロネバネバとなり、血管も傷ついて詰まりやすく」、脳こうそくの危険が非常に高くなると言えます。
糖尿病の方には高血圧、高脂血症が同時に見つかることがしばしばありますが、この3悪が一緒にあると脳こうそくが非常に起こりやすくなります。したがって血糖だけ気をつけるのは不十分で、これら悪役3兄弟を適切な治療で抑えなければなりません。
糖尿病の薬のほか、生活習慣病の治療薬を一生飲む必要があるのかというのはよく耳にする質問です。糖尿病は風邪とは違い通り過ぎる病気ではありません。放置すると慢性的に異常が続く病気ですから「治る、治す」というより「ずっとコントロール」しなくてはいけない病気です。薬を飲んで病気を治療することで何を目指すのかと自分に問いかけてみてください。「元気で働き続けたいから」、「突然病魔に倒れて周囲に迷惑をかけたくないから」などさまざまでしょう。治療する私たちもそうしたことを願って必要な薬を使っています。その目的が食事療法だけで、薬なしでも十分果たせるなら飲み続けなくてもいいわけですが、脳卒中はいったん起こすとすぐに生活の質がぐんと落ちてしまう怖い病気です。糖尿病は脳卒中を呼び込やすくする疫病神ですから、これをきっちり管理して脳卒中を予防するためには、相当な覚悟で臨む必要があります。ただし糖尿病をもっただけでは、脳の血管が次第につまってくる危機を体で実感できないため、ややもすると長期的な目的を忘れて管理がおろそかになってしまいがちです。以前ラーメン屋の店主で、店が忙しく糖尿病の治療を3年目に中断して、その後足先が腐り、まもなくして脳こうそくになり、お店をたたんだ患者さんがいましたが、事業を継続する上でも糖尿病の治療は大切です。
糖尿病の管理はある意味地震対策と似たところのある病気でしょう。きちんとした耐震対策を施すためには、最低限の投資をしなければならないように、脳卒中という突然の病気の対策には薬がどうしても継続して必要なことがあるのです。私たちは脳こうそく予防のためにも糖尿病患者さんには「風邪とは違う糖尿病、食事療法続けよう、薬は勝手にやめないで」と説いています。